「研究者 なるには」というキーワードで検索して訪問してくださる方がいらっしゃいます。
理系研究者は確かにイメージがつかみにくい職種ですので、この記事で理系研究者、特に生物学・生命科学系研究者になる方法をまとめます。
研究者への進路を考えている中学・高校生くらいの方の参考になれば幸いです。
理系の学部を卒業する
高校卒業後は大学 (理系の学部)へ進学し、そこを卒業することは必須です。大学の学部を卒業すると「学士」という学位を名乗ることができます。
大学で習うのは最先端の学問からはまだまだ遠い、専門家なら知っておかないといけない基礎知識のレベルにとどまります。多くの学部では、最後の1年間は希望する研究室に配属され実際に研究活動を行いますが、研究発表をするような成果になることはありません。
たった1年しか研究経験がないのですから、これだけでプロの研究者になるのはまず無理です。
そのため、理系の研究者を目指す上では大学院に通って、修士、そして博士をとる必要があります。
大学院というのは一応の授業はあるもののほとんど全ての時間を1つの研究室での研究に費やす修行期間で、2年間かけて修士をとれば最低限の研究はできるのではという企業の期待もあり、修士をとった段階で企業の研究職に採用される方もいます。
ただ修士で研究職というのは上司 (指導教授) が業界で有名であるとか (~先生の教え子なら大丈夫だろうということ)、それなりの理由がある場合が多く、実際には研究職を希望しながらも違う職種につくケースの方がずっと多いです。
また、企業の「研究職」というのは実際には「商品開発」を意味することも多く、本当の意味での学問の探究をする研究とは少し違います。
企業の経営者側も何の役に立つか分からない学問の研究よりも将来的な売上が望める研究をしてほしいですし、研究の途中であっても企業の方針変更があれば命令に従って新しい研究をやらなければいけません。
知人の中にも企業の研究職は何人かいますが、20代・30代前半のうちは「研究職」でも40代以降に営業職等の別の部門に異動になることは多いようで、「ずっと好きな研究をしたい」という方には企業勤めは合わないかもしれません。
かといって、修士のレベルでは本当の学問的な意味での「研究職」につくにはまだまだ不十分で、もし大学や研究所の「研究者」を目指すなら大学院に引き続き残って博士号を目指す必要があります。
ちなみに18で高校卒業 + 4年で学部卒業 + 2年で修士で、最短でもこの時点で24才になります。
博士号を取得する
博士課程では、もう授業はありません。教科書的な座学はもう終えており、人類が誰も知らない未知の現象を解明するトレーニングです。
多くの場合、最初のテーマは指導教官が与えてくれますが、指導教官もそのテーマが上手くいくのか分かりません。
結果がうまくいくのは高校や大学の学生実験レベルまでです。むしろうまく行かないことが当たり前で、うまくいかないながらもそこから仮説を立て改善していくことの繰り返しです。
博士課程の大きな特徴として、一応の年数は決まっているものの、実際にその年数で博士号がとれるとは限らないということがあります。
学士 (4年)や修士 (2年)は、きちんと試験に合格して単位を取れば規定の年数でとれますが、博士にはこういった制度が存在しません。
博士号の基準は大学によって少しずつ違うのですが、簡単にいうと研究成果を論文としてまとめ、受理されたら博士号ということになります。
数年にもわたる研究成果を論文としてまとめるのは大変な作業ですが、もっと大変なのはそれを掲載してもらうということです。
学術誌に投稿しても、その道の専門家複数に厳しく審査され (これを査読といいます)、多くの場合は掲載拒否されます。幸いにして専門家に興味を示してもらったら、今度は指摘された追加実験を行うことになります。このリバイスと呼ばれる追加データを合わせて、専門家が掲載に値するかを判断し、OKなら論文が受理されます。
知人がNatureという学術誌に論文を受理されたときには、5人の専門家から100近くのコメントがつき、それらに全て答えるのに2年を費やしました。
私も以前Cellという学術誌の関連誌に論文を掲載したのですが、投稿してから1年半もしてから受理されました。
もちろん受理されるまでの期間はまちまちで、学術論文を投稿して2ヶ月で受理された経験もあります。
ここでのメッセージは、研究はうまくいくか分からない上、論文投稿後も受理されるまでの期間はいろいろなので規定年数で卒業できるとは限らないということです。
論文が学術誌に受理されたら、大学に申請し、その人物が博士号に値するのか公開審査されます。これは学位審査と呼ばれ、学位審査の体験談とやっておくべきことに体験談をまとめました。
この審査に合格して、博士になります。24で修士を卒業した場合、最短で3年 (医学系なら4年) かかるので博士号をとるときにはアラサーになっています。
博士号は研究者にとってのパスポートみたいなもので、これを取ってやっとスタート地点ということになります。
大学院に在籍している間は学生なので、給料をもらうどころか、逆に授業料がかかります。同世代の方が給料をもらう中で、研究者を目指して博士号を取る場合には30前後まで学費を払い続けることになるわけです。
もちろん国としても優秀な若者を支援するため学術振興会の特別研究員 (学振) という月20万円を支給してくれる制度 (返済不要) もあります。その他の制度も合わせて、大学院の給付型奨学金一覧 【学振DCだけではない】でまとめました。
ポスドク・研究留学をする
博士号をとったらすぐに常勤の研究者になれるというわけではありません。大学や研究所の常勤の研究者には定員があり、枠があくまで入れないのです。
枠が空いたとしても、1人の求人に対して数十人が応募してくるので、博士号を取得したばかりだとまだ研究実績的に他の候補者に勝つのは難しいでしょう。
そのため、さらに追加で非常勤の研究者 (ポスドク) をして、研究実績を増やしながら順番を待つことになります。
あるいはこのタイミングで海外に研究留学をして、研究者としてのスキルアップを目指す方もいます。研究留学にはお金がかかりますが、いろいろな民間団体が支援してくれる制度があります。詳しくは海外研究留学のための助成金・フェローシップ【経験談あり】をご覧ください。
ポスドク期間は不安的な身分 (多くの場合は1年更新)、年収は所属機関によって変わりますが300 ~ 500万ほどではないでしょうか?
常勤研究者になる
研究実績が十分たまり、さらにちょうど求人があれば常勤研究者 (助教や准教授など) になれます。
出身大学や学部などはほとんど不問で、研究室のボス (教授など) が採用を決めることになりますので、例えば医学系の研究がしたいから医学部をでないといけないというわけではありません。
実際のところバイオ系は研究対象が違っても使っている研究・実験手法の多くは同じなので、多用なバックグランドの方が同じ研究室にいることも珍しくありません。
助教なら年収は500-600万円、准教授なら700-800万円ほどでしょうか。この頃には研究チームのリーダーになり、本業の研究の他、研究室の学生の指導や学部生の授業といった教育活動も増えてきます。
研究室を主宰する
研究者を目指す場合、研究室を主宰するというのを1つの目標に掲げる方も多いです。
研究室主催者はprincipal investigator, 略してPIと呼ばれていて、大学では教授が相当します。それに対して准教授以下のメンバーはnon-PIといいます。
PIとnon-PIは例えていえば野球の監督と選手のようなもので、その役割は大きく違います。
PIになって自分の研究室を立ち上げれば、誰からも指図されず自分の好きな研究ができますが、研究を一緒にしてくれる仲間 (スタッフや学生など) を集めたり、研究に必要なお金を外にうまくPRして集めてくる必要があります。
研究が順調にいっていれば、現在だと40代で研究室を主催し始める先生が多いと思います。また研究者の世界に年功序列制度はないので、画期的な成果を次々にあげている方だと30代前半でPIになるケースもあります。
まとめに代えて
研究者になりたいということは、きっととても興味のある分野があるのだと思います。
それは素晴らしいことですが、高校生くらいの方にお願いしたいのは、その分野だけでなく他の分野の勉強もおろそかにしないでほしいということです。
まだあまり本格的に勉強していない現段階での興味は、これからいろいろな経験をしていく上で変わることも大いにあります。
例えばiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥先生も、大学院時代は犬の血圧を下げる薬について研究をして博士号をとりました。再生医療とはほど遠い分野です。
そういったときに他分野をおろそかにしていると柔軟に対応できなくなってしまいます。
高校や大学の1~2年くらいまでに出会う科目は、どの科目も将来研究者を目指す上で大きな礎になると信じて、一生懸命勉強してください。
関連図書
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