打診・聴診法の短い開発物語 【過去の体験が大きなヒントに】

4つの基本的な診察法、問診 (医療面接)・触診・打診・聴診があります。

このうち、視診や触診については古くから行われていて、例えばピポクラテス全集にも詳細にまとまっています。

打診と聴診はヒポクラテスの時代から1000年以上もたって発明されました。この記事では、打診・聴診の短い歴史を紹介します。

ワイン樽から着想を得た打診法

打診法は、こちらの動画のように指で叩いてその下にあるものを調べる診察法です。

打診法の発見者は、18世紀のオーストラリアで活躍したレオポルド・アウエンブルッガーです。

もともとアウエンブルッガーの実家は宿屋であり、父親がワイン樽の残りを調べるために樽をたたいて確認している様子を見て、打診の着想を得たと言われています。

アウエンブルッガーは主に結核患者さんの胸を指でたたき、その音を調べたところ、肺の部分は澄んだ音、心臓の部分は濁った音がすることを見つけました。胸の病気が進行すると打診音が濁ったり、あるいは逆に太鼓のように響くことが分かってきました。

この反響音と胸郭内での「水」(滲出液や血液など) に明確な対応関係があることを7年間にわたって調べ、1761年に「人体胸部叩打による内部潜在疾患検出のための新発見」という著書をドイツ語で出版しました。

出版当初は全く注目されなかったものの、1808年にナポレオンの侍医によって「心臓病の診断にもっとも有用な方法」としてフランス語で紹介されて有名になりました。

今日では冒頭にも書いたように4大診察法として多くの医療系の学生が学ぶ基本手技になっています。

子供の遊びをもとに開発した聴診法

聴診そのものは古代ギリシャから行われていましたが、その当時は患者さんの体に直接耳をつけて行う直接聴診法でした。

今のように聴診器を使った関節聴診法は19世紀のフランスで活躍したルネ・ラエンネックが確立した方法です。

聴診器を思いついたのは、子供の遊びからです。子どもたちは、木の棒の片方を耳にあて、もう片方の端をピンで引っ掻いて遊んでいました。このようにすれば実際よりも大きな音が聞こえる、ということが、なぜかラエンネックの頭の片隅に残りました。

ある日、ラエンネックは心臓病の若い女性の診察をすることになりましたが、その方は皮下脂肪が厚く、触診や打診でも所見が得られませんでした。そこで子どもたちの遊びを思い出し、紙を丸めて筒をつくり胸の音を聞いてみた、というのが聴診器の始まりです。

これに驚いたラエンネックは、木の筒で聴診用の道具を作り、stethoscope (聴診器)と名前をつけました。「Stethos」はギリシャ語で「胸」、「Scope」は「みる道具」という意味です。

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世界初の聴診器 (wikipediaより)。

ラエンネックは3年後の1819年に発表した「De l’Auscultation Médiate ou Traité du Diagnostic des Maladies des Poumons et du Coeur」(間接診察法、または肺と心臓の病気の診断についての論文) の序文でこのように述べています。

1816年、私は心臓の病気の一般的症状に悩まされている若い女性を診察した。その症例では脂肪が付きすぎていて打診や触診ではほとんど何もわからなかった。……そこで私は音響についての単純でよく知られた事実を思い出した。……すなわち、木片の一端に耳を押し当てると、もう一端をピンで引っかいた音がよく聞こえるということである。そこで私は紙を丸めて筒状にし、一端を心臓のあたりに押し当て、もう一端を私の耳にあてた。すると心臓の鼓動が耳を直接押し当てたときよりはっきり聞こえた。

ラエンネックは聴診音をしっかりと記録し、多くの病気がそれぞれ特徴的な音と関係していることを明らかにしたのです。

ラエンネックの聴診器は時代が下るとともに改良されていき、今のような両耳型の聴診器の原型ができたのは1850年代のことでした。

まとめに代えて

現在の診察の根幹をなす打診法と聴診法の発見の経緯を紹介しました。いずれの方法とも、もともと全然関係ないことからインピレーションを得て開発されています。

打診や聴診に限らず、現在の医学の根幹をなす多くのものは他のことがきっかけで見つかっていて、例えば聴診器の開発からさらに100年後が舞台になりますが抗生物質の発見物語なんかもその典型例です。

今の経験が後々どこで大きなヒントになるか分からないということですね。

関連図書

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