フェノール・クロロホルム抽出とDNA精製 【フェノクロ試薬の役割も】

生命科学、特に分子生物学領域の研究の中で、核酸の精製を行うことは多いです。その精製の重要なステップであるタンパク質の除去には、フェノール:クロロホルム抽出 (フェノクロ抽出) が使われてきました。

この記事では、フェノクロ抽出の実験手順や注意点、それからフェノクロでは除けない低分子の化合物を除く方法をまとめます。

フェノール・クロロホルム抽出の歴史と各試薬の役割

1950年代半ばまで、DNAを精製する標準的な方法は、界面活性剤と過塩素酸塩のような試薬を組み合わせる方法でした。これで大まかにタンパクを取り除いた後、最終的な除タンパクはイソアミルアルコールを混ぜたクロロホルムを使って数回抽出するという方法だったのです(Sevag 1934など)。

今では当たり前になったフェノールを使う方法は、Kirby(1956)によって発表されました。この最初の論文で、哺乳類組織のホモジネートからフェノールと水の混合物を使うと水相へRNAが回収できることが示されたのです (DNAは界面でタンパク質と結合したまま)。

フェノールは比重が1.07であるため、水 (比重1)と混ざると通常はフェノールが下相に来ます。しかし、塩濃度が濃い水溶液と混ざると、有機相と水相の分離が困難であったり、逆に反転したりすることがあります。

その後フェノールだけでなくクロロホルムも合わせた試薬が使われるようになりました。1つの有機溶媒だけでなく、2つの異なる有機溶媒を使用した方が除タンパクが効率的だったということと、フェノールだけではRNase活性を抑えるのに十分ではないということが理由です。

フェノールとクロロホルムを1:1で混合した試薬を使った場合には、クロロホルムの比重が高い(1.47)ため、ほとんどの場合でフェノール/クロロホルム相が下に来るようになりました。

また、泡立ちを抑えるためにイソアミルアルコールも併用で使われるようになりました。フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコールを25:24:1で使うことが多いです。

フェノールの注意点

純粋なフェノールは白色の結晶ですが、空気や光にさらされると赤みを帯びやすく、アルカリ性だとさらにこの反応は加速されます。

結晶のフェノールは、ホスホジエステル結合を壊したり核酸の架橋を促進するキノンなどを除去するために182℃で再蒸留する必要があるため、一般の生命科学系の研究ではあまり使うことはないでしょう。

多くの製造業者は、フェノールを液体の状態で市販しています。注意点として、液化フェノールが無色であればそのまま実験に使えますが、もしピンクや黄色になっているものは使ってはいけません

また、フェノールは水で飽和させ、TrisでpH 7.8以上に平衡化しなければいけません (酸性pHのフェノールを使うとDNAが有機相にいくため)。

フェノクロ抽出の手順

実際のフェノクロ抽出のやり方の例を示します

1. 試料をポリプロピレンチューブに移し、フェノール:クロロホルムを等量加える。

フェノールが十分にpH 7.8-8.0に平衡化されていない場合、核酸は有機相にいってしまう傾向があるので注意

2. チューブをしっかり混合する。

3. 混合物を室温で 1 分間、チューブが耐えられる最高速度の 80%程度で遠心する。有機相と水相が十分に分離していない場合は、さらに長い時間遠心する。

通常は水相が上にくるが、塩分が多い(>0.5M)とかショ糖が多い(>10%)などで水相の比重が上がると下相に来ることもある。フェノールの平衡化の時に8-ヒドロキシキノリンを添加しておけば、黄色い方が有機相だとすぐ分かる。

4. ピペットを使用して、水相を新しいチューブに移す (界面と有機相は廃棄)。

収率をさらにあげたい場合は、残った有機相と界面に等量のTE(pH7.8)を追加し、よく混合して、遠心後、水相を回収して最初の水相と合わせることで収率アップできる。

5. 有機相と水相の界面に白いタンパク質が見えなくなるまでステップ1-4を繰り返す。

6. 水相に等量のクロロホルムを加え、ステップ2~4を繰り返す。

7. 水相を回収し、エタノール沈殿などで核酸を回収する。エタノール沈殿についてはエタノール沈殿のプロトコルと原理・理由 【トラブルシューティングも含めた完全版】に詳しく書いています。

Drop Dialysisによる低分子の精製

核酸の精製といえば多くの場合はフェノクロ等でタンパクを取り除くことを指しますが、残ってしまう低分子が制限酵素反応やシークエンスなどを阻害する場合には微量透析で簡単にDNAから除くことができます。

1. 直径10cmのシャーレに10 mlの滅菌水を入れて、光沢のある面を上にして浮かせたMillipore Series Vメンブレン(0.025 um)の中心に、一滴(〜50 ul)のDNAを載せる。

2. DNA を 10 分間透析する。

3. 液滴を新しいエッペンチューブに回収するだけ

関連図書

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