1コンパートメントモデルと消失速度定数 【簡単に薬物動態を計算する】

薬物がどれくらいの速度で血中から消失していくのかの大きな指標になるのが、消失速度定数と生物学的半減期です。

この記事では、複雑な体内を非常に単純化したコンパートメントモデルを紹介し、生物学的半減期を計算する方法について見ていきます。

コンパートメントモデル

コンパートメントモデルでは、人の体を究極に単純化して薬が分布する入れ物 (コンパートメント) と考えます。

人の体を血液という1つの入れ物として考えるのが1コンパートメントモデルといいます。

外からの薬剤→血液→排出

非常に簡単なモデルですが、多くの薬の薬物動態はこのモデルでそれなりにうまくできます。

もちろん、血液だけでなく組織との移行も考える2コンパートメントモデルもあります (2コンパートメントモデルが必要な代表的な薬剤としてはジゴキシンが知られています)が、この記事では最も単純な1コンパートメントモデルを紹介します。

消失速度定数

コンパートメントモデルを使って薬物動態を考える時、まず理解しなければいけないのが消失速度定数 (ke)です。

その名前の通り、消失速度定数が大きければ薬が血中から速く消失し、速度定数が小さければ薬がゆっくり消失していきます。

[common_content id=”3358″]

薬の血中濃度をC, 時間をt, 消失速度定数をkeとすれば、

$- dC /dt = ke・C$

と書くことができます。

この式の左辺のdC/dtというのは、ごく短い時間での血中濃度の変化、つまり消失速度を表しています。右辺のkeは定数なので、濃度Cに比例することを意味しています。

ポイント1: 消失速度定数の大きな薬は小さい薬よりも血中からなくなる速度が速い
ポイント2: 同じ薬でも血中濃度が高いほどなくなる速度が速い

消失速度定数と生物学的半減期は反比例する

血中濃度の変化が血中濃度に比例しているということは、濃度が半分になれば消失速度も半分になるということです。

例えば、血中薬物濃度が100 mg/mLだとして、10 mg/mLの速度で消失しているとします。血中濃度が50 mg/mlになれば、消失速度は 5 mg/mlとなります。

このようにして考えると、血中濃度に関わらず、どの時点から測っても血中濃度が半分になるまでの時間は変わりません。

血中濃度が半分になるまでの時間を生物学的半減期といい、t1/2といいます。

消失速度定数よりも、生物学的半減期の方がイメージしやすいので、薬剤の添付文書にはよく半減期が書かれていますが、これらは相互に変換可能です。

消失速度定数が大きいほうが速くなくなっていくので生物学的半減期が短くなるのは直感的に理解できますが、これらには

t1/2 = 0.693 / ke

という関係があります。

この関係は、上記の関係式 (微分方程式) から計算することができます。

\begin{align*}
– dC/dt = keC
\end{align*}
変数分離して、
\begin{align*}
– \frac{1}{C} ・dC = ke ・dt
\end{align*}
両辺を積分し、
\begin{align*}
-\int (\frac{1}{C})dC = ke \int dt
\end{align*}
つまり
– lnC = ke・t + 積分定数

ここで、初期状態t=0の時の濃度をC0とすると、上式の積分定数は – lnC0であるので、
\begin{align*}
ln \frac{C_0}{C} = ke・t
\end{align*}

濃度Cが初期状態のC0の半分になるまでの時間t1/2は、上式にC = C0 /2を代入することで
$ln2 = ke・t_{1/2}$

つまり
$t_{1/2} = \frac{ln2}{ke}$

ln2 = 0.693であるので

t1/2 = 0.693/ke

このようにして、消失速度定数から生物学的半減期が計算できるというわけです。

関連図書

この記事に関連した内容を紹介しているサイトや本はこちらです。

分布容積と組織移行性を分かりやすく 【計算方法と小さい・大きいの目安】

今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。当サイトの記事をもとに加筆した月2回のニュースレターも好評配信中ですので、よろしければこちらも合わせてどうぞ