医師執筆記事 (厚労省医籍登録番号499533)
一昔前は、切り傷や擦り傷の手当てといえば傷口を消毒してガーゼを当て、乾かして治すのが主流でした。
最近は消毒をせず乾燥もさせない、「湿潤療法」というこれまでの常識を覆す方法が注目を集めています。
まだあまり知られていない、新しい怪我の処置「湿潤療法」について基本から紹介し、後半では家庭でも「湿潤療法」をやるために必要な道具と、逆に病院に行くべき時について見ていきます。
湿潤療法の仕組み
人を含めた動物には、けがや病気をしたときには自ら治そうとする自然治癒力があります。
小さな擦り傷や切り傷ならなめておけば治ります。野生の動物も、ケガをしたら傷をなめて治しますよね。
新しい湿潤療法 (モイストケア) は、本来体に備わっている自然治癒力を最大限に生かすために少ししめった状態で治す治療法のことです。
人が本来持っている自己治癒力を最大限に生かす方法でかさぶたを作るよりも早く綺麗に治すことができます。
なぜ乾かさない方がいいのか説明が必要ですね。そのためには、少しだけ傷の治り方を知っておく必要があります。
怪我をすると出血した傷口に血小板が詰まり血液を固め滲出液 (しんしゅつえき) と呼ばれる液が染み出てきます。
傷がジクジクしてくると「化膿した」と思いがちですが、このジクジクした浸出液に、傷を治すために必要な細胞成長因子が豊富に含まれています。
浸出液には傷を治すために必要な成分がたくさん含まれていてこれが傷口に作用してキズを治しているのです。
傷を早く治すためには、傷口に集まった細胞たちが、最善の環境で活発に活動できるようにすることが大事です。
そのため、湿潤療法では消毒もガーゼも使わず、湿った状態を保つのです。
消毒をしないので消毒液がしみる痛みや、ガーゼを使わないのでガーゼをはがす時の痛みがなく、傷が早く治ります。
家庭でできる怪我の応急処置
滲出液が活躍するためには傷口を乾燥させず、適切な湿潤状態を保つことが重要になります。
消毒液は傷を治そうとしている細胞にもダメージを与えてしまい逆に傷の治りを妨げてしまう可能性があります。
家庭では、水道水で傷口に入り込んだ砂や泥を洗い流せば十分です。
ガーゼで覆うと滲出液が吸い取られて傷口が乾燥し、かさぶたとなってしまいます。
かさぶたは皮膚の再生を邪魔し傷の治りを遅くさせます。ガーゼを取り替える時にくっついて、せっかくできてきた目に見えない薄い皮膚を剥がしてしまうこともあります。
ドラッグストアなどで販売している湿潤療法用の絆創膏などを利用するといいでしょう。
ハイドロコロイドという素材で作られた「家庭用創傷パッド」(傷パッド)などで覆えばいいです。
具体的な商品名だと、
キズパワーパッド(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)
ケアリーヴ治す力(ニチバン社)
ムヒのキズパッド(池田模範堂社)
などが代表的なものです。
滲出液が染みるとだんだん膨らんでくるのですが、これが交換の目安になります (取り替えないとアセモができます)。大体1日に1回程度かと。
傷パッドが手元にない場合は、傷口にワセリンを塗って、くっつかないガーゼなどで覆うことで乾燥を防ぎ、治癒を促す方法もあります。
ガーゼの代わりにワセリンを塗ったラップで覆い、その上から包帯で抑えるという方法も応急処置としてはOKです。
しかしラップの最大の弱点は水分を通さないことで、これはやけどの治療では絶対やってはいけないということにご注意ください。
傷が痛くなければ、お風呂に入ることもできます (痛かったらシャワーで流す程度で)。
朝日新聞にわかりやすい図が掲載されていたので引用させていただきますね。
必要なものを揃えるときの参考にしてみてください。今は便利な時代でして、薬局だけでなくAmazonでも揃えることができます。
病院を受診した方がいい擦り傷・切り傷
いつでも自宅で治療できるわけではありません。病院を受診した方がいいこともあります。
例えば噛み傷や、皮膚が裂けた場合などは傷の奥深くまで細菌が入り込んでいることがあるので病院を受診した方がいいです。
出血が止まらないとか腫れてくる場合も自宅で処理をするのではなく病院に行きましょう。
傷の中に砂や泥などが残っている場合も同様です。
擦り傷や切り傷は何科?としばしば聞かれますが、お近くの外科の先生のクリニックか、大きい総合病院の救急部が窓口になります。
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 怪我の治療は湿潤療法が主流になりつつある
- 消毒液と絆創膏は使わない
- 流水で洗って傷パットをかぶせるだけ
- ラップで応急処置もできるが、やけどの時には不可
- 少しでも不安があれば病院へ、担当は外科か救急
今日も【生命科学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。