T細胞以外へのCARの応用 【自己免疫疾患にも有効】
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【生命医学をハックする】運営者 (@biomedicalhacks)。生命科学研究者、医師・医学博士。プロフィールはこちら

細胞療法の代表例とも言えるCAR-T研究については、CAR-T療法の研究開発を俯瞰する 【現状と課題】という記事にまとめました。

T細胞を改変し、がんの治療に使うという取り組みでした。

他にも実はT細胞以外の免疫細胞を改変したり、がん治療だけでなく他の疾患にも使えるのではないかという研究が少しずつ増えています。

この記事では、そういったCAR-T x がん 以外の分野についてご紹介します。

NK細胞を改変する

CAR-T細胞はCAR-T療法の研究開発を俯瞰する 【現状と課題】にも書いた通り一部のがんにおいてとても魅力的な効果を発揮していますが、いくつかの理由でその適用範囲が十分に広がっているとは言えないということもまた事実です。

例えば、CAR-T細胞はもともと患者さんのT細胞を改変してつくるものなのでリンパ球にも障害が出るような薬剤 (抗がん剤など) 治療をしている方では臨床的に十分なCAR-Tを作るのが難しくなります。

かといって他の方由来のCAR-Tを使おうとすると、今度はHLAがマッチしたドナーを探すのに手間がかかってしまいます。

もちろん、CAR-Tの製造そのものも高度かつ時間のかかることです。

これらの挑戦的な課題を打破するために、いま他のタイプの免疫細胞、具体的にはNK細胞とマクロファージを改変するという試みに注目が集まっています (Engineering strategies to overcome the current roadblocks in CAR T cell therapy. Nat. Rev. Clin. Oncol. 2020)。

NK細胞は従来から悪性細胞に対する迅速な応答を引き起こすことから知られていて、この特性が細胞療法のための魅力的なソースになるのではないかと期待されている大きな理由になります。様々なCAR NK細胞が開発され、そのいくつかは臨床試験中になっています (CAR-NK for tumor immunotherapy: clinical transformation and future prospects. Cancer Lett. 2020)。

それでは具体的にNK細胞はT細胞よりもどういったメリットがあるのでしょうか?

一番の魅力は、CAR-T細胞とは異なり、CAR-NK細胞は厳格なHLAマッチングが不要であるということがあります。実際、HLAを厳密に合わせずともGVHDやCRSといった重篤な副作用を引き起こす危険性が低いことが臨床研究から明らかにされました (Use of CAR-transduced natural killer cells in CD19-positive lymphoid tumors. N. Engl. J. Med. 2020)。

さらに、CAR-NK細胞は、末梢血や臍帯血といった血液だけでなく、ヒトES細胞、iPS細胞といった「万能」細胞や、NK-92という細胞株からもつくることができます。

CAR-NK細胞の設計は、CAR-T細胞の設計に似ていますが、NK細胞のユニークな特性に合わせて、抗腫瘍能力を最適化することも可能です。例えば、NKG2Dの膜貫通ドメイン、2B4共刺激ドメイン、CD3ζシグナリングドメインを含むNK細胞用の改良型CARコンストラクトが報告されています (Human iPSC-derived natural killer cells engineered with chimeric antigen receptors enhance anti-tumor activity. Cell Stem Cell 2018)。

このCARを発現するiPS細胞由来のNK細胞は、CAR-T細胞と比較して、より強力な抗腫瘍活性を発揮するようです。

遺伝子改変マクロファージ

固形腫瘍の治療におけるCAR-T細胞, CAR-NK細胞の欠点の1つは、固形腫瘍へその細胞がそれほど入ることができないということが挙げられます。

一方で、マクロファージはもともと組織に遊走する細胞であり、腫瘍にもそれなりに入り込むことができるので、マクロファージを改変しようという試みもあります。

実際、CAR改変をしたマウスマクロファージ(CAR-M)が標的とするがん細胞をファゴサイトーシスによって減らすことができることが実証されています(Chimeric antigen receptors that trigger phagocytosis. eLife 2018)。

また、抗原を感知すると、CAR-Mがマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を分泌して細胞外マトリックスを分解し、これによってT細胞の浸潤と腫瘍抑制ができるように改変されたマクロファージもあります (Chimeric antigen receptor macrophage therapy for breast tumours mediated by targeting the tumour extracellular matrix. Br. J. Cancer 2019)。

ただ、マクロファージ工学はまだ研究が始まったばかりであり、解決すべき難問も残されています。

そもそも、マクロファージへの遺伝子導入は簡単ではありません。さらに、腫瘍中のマクロファージには大きく腫瘍抑制性のM1マクロファージと腫瘍促進性のM2マクロファージという全く異なる2つのタイプがあり、CAR-Mが腫瘍に到達したあとにM2になってしまうかもしれません (Human chimeric antigen receptor macrophages for cancer immunotherapy. Nat. Biotechnol. 2020)。

これらの生物学的なハードルをクリアすることがCAR-Mの応用には必要になってくるでしょう。

CARで自己免疫疾患を治療する

B細胞リンパ腫に対するCAR-T細胞療法の大成功により、B細胞に起因する自己免疫疾患の治療にもCARが使えるのではないかという大きな期待を集めています。

B細胞は全身性エリテマトーデス(SLE)という自己免疫疾患において極めて重要な役割を果たしています。抗CD19 CAR-T細胞を使い、SLEにおけるこれらの異常B細胞を枯渇させることができ、SLEマウスの症状が緩和され寿命が有意に延長しました (Sustained B cell depletion by CD19-targeted CAR T cells is a highly effective treatment for murine lupus. Sci. Transl. Med. 2019)。

しかし、いいことばかりではありません。

B細胞リンパ腫の治療の場合と同じですが、B細胞を抑えることで、抗体が作られず、低ガンマグロブリン血症になってしまいます。

CD19のような一般的なB細胞を標的にするのではなく、病原性があるB細胞を特異的に枯渇させる必要があります。

そのために、キメラ自己抗体受容体(chimeric autoantibody receptor, CAAR)がB細胞に導入されました (Reengineering chimeric antigen receptor T cells for targeted therapy of autoimmune disease. Science 2016)。

CAARの細胞外ドメインには自己抗体を認識するようになっています。これによって、自己抗体をつくるB細胞を狙うことができるという戦略です。

まとめに代えて

この記事では、CAR-T x がん以外のCARの応用性についていくつかの代表的な研究を中心に紹介しました。これらはどちらかというと発展的な内容であり、逆にいうとまだまだ研究開発の余地が大きく残されていて、そう遠くないうちに大きく変わりうる分野でもあります。

CAR-T x がんについてはCAR-T療法の研究開発を俯瞰する 【現状と課題】にまとめているのでこの記事と合わせて読むとさらに理解が深まると思います。

CARは最も有望な細胞療法の1つですが、細胞療法については実験医学別冊に特集が組まれています。

NK細胞を使ったがん免疫の試みについて、一般の方向けに分かりやすく書かれた「図解 免疫細胞療法 NK細胞でがんと闘う」という本もあります。

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