人類の歴史は常に飢餓との戦いでした。飢餓から身を守り、少ししか食べ物がなくても効率的に利用できるよう、人間は栄養をある程度貯蔵する仕組みを持っています。
しかし現代の日本のように飢餓の心配とはほど遠い食生活であっても、体は昔のように栄養をなるべくためようとするので、肥満の方が増えていきます。
コレステロールや中性脂肪 (トリグリセライドとも) などが血液中に増えるのはそういった事情があります。
特にコレステロールが高い方は年々増えており、全人口の30%に達しています。
今回はなぜコレステロールが高いといけないのか、そもそもコレステロールとは何かについて紹介します。
この記事の内容
脂質異常症は沈黙の病気
脂質異常症は、それだけでは特に症状はありませんが、体中の血管に動脈硬化と呼ばれる変化が進みます。動脈硬化が進行すると、血管の内側が狭くなり、その結果として血液が通りにくい状態になります。
さらに進んで、心臓の血管が詰まると急性心筋梗塞、脳の血管が詰まると脳梗塞になり、いずれも命の危険があります。生活習慣が悪いと進展はさらに速くなります。
動脈硬化は重篤な病気が起きるまでは全く症状のないのが怖いところで、沈黙の病気(silent disease)とも言われています。
血液の中に悪玉コレステロールや中性脂肪が多い状態を、ひと昔前は高脂血症 (こうしけっしょう) と呼んでいました。
しかし実際には、善玉コレステロールが少なすぎても危険なので、2007年からこの2つを合わせて脂質異常症という名前になりました。
つまり脂質異常症は「悪玉コレステロールや中性脂肪が高い・善玉コレステロールが低い」ことです。
次のうちどれかを満たすと脂質異常症です。
中性脂肪 | 150 mg/dl 以上 |
LDL (悪玉) コレステロール | 140 mg/dl 以上 |
HDL (善玉) コレステロール | 40 mg/dl 未満 |
そもそもコレステロールって何?
体のなかには4種類の脂質(中性脂肪、コレステロール、リン脂質、遊離脂肪酸)があります。
これらの脂質は、それぞれ体にとって重要な役割があり、すべて有害というわけではありません。
このうちコレステロールは、細胞の一番外側の細胞膜の成分として、ホルモンの成分として、あるいは脂肪を吸収する時に必要な胆汁酸の原材料としても重要なものです。
悪玉コレステロールと善玉コレステロール
脂肪は血液などの水分にあまり溶けないので、血液中の脂肪の周りには、水に溶ける蛋白質などが取り囲んでいます。脂肪を運ぶタンパク質をまとめてリポタンパクといい、脂肪はリポタンパクにくっついた形で血液中を流れています。
リポタンパクは、大きく2つのルートを流れます。
肝臓で作った脂肪を全身に配る
中性脂肪やコレステロールは小腸で部品として吸収された後、肝臓で組み立てられて作られます。これらを運ぶリポタンパクは、超低比重リポ蛋白(VLDL)と呼ばれています。
中性脂肪が体のあちこちでエネルギー源として使われると、VLDLは「超低比重」よりも少し重い「低比重」のリポタンパクであるLDLになります。
なぜ中性脂肪が使われたのに、重くなるのでしょうか? それは脂肪は水よりも比重が小さく水に浮くからです。水よりも軽い中性脂肪が使われてしまったので、重くなるというのは、イメージとしては浮き輪を取り除かれると浮いているのが大変になるというところかもしれません。
体のすみずみの細胞や肝臓には、LDLを取り込む玄関として働くLDL受容体があり、LDLはここから取り込まれて細胞の内部に入って正常では使われています。
このLDL受容体が減ってLDLの取り込みが悪い、あるいはコレステロールが肝臓でたくさん作られすぎると、血液中にLDLが多くなってしまいます。
これが血管に侵入すると動脈硬化につながるので、LDLコレステロールのことを悪玉コレステロールといいます。
余った脂肪を回収するルート
体内で余った、利用されない脂肪を回収して再利用する経路もあります。配るルートとは逆のルートです。高比重リポ蛋白(HDL)がこれを担っています。
HDLは、動脈硬化でたまったコレステロールを抜き取ったり、体の余分な脂肪を受け取って肝臓に戻すことが出来ます。
HDLコレステロールがたくさんあれば、動脈硬化を予防できるので、善玉コレステロールといいます。
脂質異常症 (高脂血症) は生活習慣病の1つ
脂質異常症は生活習慣病の1つで、治療が必要な状態です。食事のポイントについては少し長くなるので別の記事にまとめました。
[getpost id=”2124″ title=”関連記事” target=”_blank”]
この食事に気をつけた上で、それでも目標とする数値にならない場合に薬を飲むことになります。
[getpost id=”2261″ title=”関連記事” target=”_blank”]食事や運動があっての薬物療法なので、薬だけではコレステロールや中性脂肪が十分下がることはないことに注意が必要です。
他の生活習慣病である高血圧や糖尿病についても記事を書いています。
[getpost id=”1766″ title=”関連記事” target=”_blank”]
[getpost id=”1177″ title=”関連記事” target=”_blank”]
まとめ
最後に今回の内容をまとめます。
- 飽食の影響で脂肪異常の方が増えている
- 悪玉コレステロールと善玉コレステロール、中性脂肪の異常を合わせたのが脂質異常症
- 脂質異常症を放置すると動脈硬化から心筋梗塞につながる
今日も【生命科学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。