医学系の研究者になりたいという中高生の方からたまにお問い合わせをいただくことがあるのですが、医学部医学科に進まなくても医学研究ができます。
理学部や工学部、薬学や農学など、理系の学部ならどこからでもOKです。ただそれぞれデメリットがあるので、大学入学後の過ごし方が重要になってきます。
この記事ではそうした事情を詳しく紹介します。
医学部医学科のメリット・デメリット
医学研究者を目指すのなら、真っ先に医学科への進学を考える方も多いと思います。
~病の研究をしたい、再生医療で患者さんを助けたい、免疫の世界を探求したいなど、興味のある分野はさまざまだと思いますが、いずれにせよ医学科に行けばそういう専門知識を身につけることができる、と考える方が多いです。
結論をいうと、残念ながら医学科ではそうした研究の経験はできません。詳しくは医学部の授業内容とカリキュラム【体験談】にまとめていますが、簡潔にいうと医学科は「医師養成専門学校」のようなものであり、将来的に医師として患者さんの診察・治療をする上で不可欠の基礎知識を詰め込みで習うところです。
医学部医学科では研究の経験をすることはほとんどできません。
卒業までに最短で6年、その後の初期研修医をあわせれば合計8年かかるので研修医が終わる頃には最短で28才になっていて、ここから大学院に進学し研究をスタートさせることになります。後述しますが理学部や工学部は27才で博士号をとれるので、同じ年代のライバルは博士号を取得する頃に自分は研究を始めるという時間のハンデがあるというのが最大のデメリットです。
一方でメリットもあり、(当たり前ですが) 他の進路の方以上に広範な医学知識を身につけることになるので、より広い視点で研究しやすいということや、臨床現場のニーズも分かっているのでいろいろな申請書 (研究費をもらうのに重要な書類です)を書きやすいということもあります。
さらに、これは科学とは関係ないことですが、研修医まで修了していれば非常勤医師としてのアルバイトがたくさんあり、大学院に通っている間も経済的に困る可能性が低いというのもポイントです。
医学部医学科以外の進路のメリット・デメリット
理学部の生命科学系や農学部といった、一見医学と関係ない学部からも医学研究の道に入ってくることができます。
基本的に最初の3年間は研究室ではなく集団授業を受けることになり、そこでは生命科学のいろいろな分野の知識を学び、最後の1年間に卒業研究として希望する研究室で研究指導をうけるというスタンスが多いです。
最短で21才から研究活動に携わることができるというのは大きなメリットです (医学部医学科に行く場合は最短で28才になり、7年も早く研究者としてのトレーニングを開始できます)。
残念ながら1年間で研究者になれるほど甘い世界ではないので、さらなる修行を大学院で行うことになり、大学の研究者を目指す場合は「博士号がパスポート」のようなものですので少なくとも2年 (修士) + 3年 (博士)で5年間は学生期間が続きます。
この期間、最短で27才までは学生である以上全く収入がないし、非常勤医師として働くことができないのでアルバイトをしても収入はそれほど期待できません。
大学院の給付型奨学金一覧 【学振DCだけではない】にまとめているように経済的に支援してもらえる制度も用意されてはいますが、希望者全員というわけにはいかず5倍以上もの競争に勝たないといけません。
めでたく博士号をとっても、すぐに常勤研究者になれるわけではないので、しばらく不安定な身分の任期つき非常勤研究者として業績をつまないと研究を続けられません。
このように経済的な点から不安を抱えることもあるというのは医療系の免許を使ったアルバイトができない場合のデメリットの1つです。
また、自分の研究対象についてはとても詳しいものの、医学科ほど広範囲の医学知識が得られるわけではないので、自分でしっかり勉強していく必要があります。
まとめに代えて
医学研究に進みたいという中高生くらいの方を対象に、進路についてまとめました。
医学部医学科に進む場合と、それ以外の道のメリット・デメリットをよく調べて選択するのをオススメします。
また、記事を読むと分かっていただけたかと思いますが、基本的に大学の学部で研究をすることはほとんどありません。むしろ研究者を目指す方のトレーニングの舞台は大学院になります。
そのため、大学入試では残念ながら万が一第一志望のところには入れなかったとしても、本当に大事なのはしっかりした大学院選びです。
大学入試に出身高校が関係ないのと同じく、出身大学や学部に関係なく希望の大学院を受験できますので、極論すれば学部はどこでも構いません。
実際、大学で生命医学の研究者をしている知人には学部時代は工学部で核融合を専門にしていたという人もいます。医学系の大学院に入学後の勉強はとても大変だったと思いますが、熱意があれば何でもできるということです。
大学院やその先のキャリアパスについては生物学・生命科学研究者になるには 【理系研究者が語る】にも書いていますので合わせて読んでみてください。
関連図書
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