小腸と膵臓はつながっている【インスリン分泌を増やすインクレチン製剤】

糖尿病薬の研究の歴史は古く、長い歴史があるメトホルミンとSU薬に特に焦点を当てた記事を書きました。

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今回は、2000年以降に出現してきた新しいタイプの飲み薬であるインクレチン製剤について紹介します。小腸と膵臓がつながっていることを利用して、インスリンを分泌している膵臓ではなく間接的に小腸に働きかけて血糖を下げます。

インクレチン製剤

2010年頃に出現してきた「インクレチン」関連と呼ばれる一群の薬は、これまでの経口薬とインスリンをつなぐ薬として大きく期待されています。

血糖を下げるホルモンはインスリンで、そのインスリンは膵臓のベータ細胞が作っているという話を以前紹介しました。

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実際には、ベータ細胞のインスリン分泌には、腸が大きく関わっていることが分かってきました。

消化管ホルモン「インクレチン」がインスリン分泌を促す

ブドウ糖を口から摂った場合と、注射で血管 (静脈)に投与した場合とでは、口から摂ったときのほうがインスリンが多く放出されます。
多くの研究の結果、食物が腸に入ると分泌される消化管ホルモン「インクレチン」が、膵臓に働いてインスリン分泌を促しているためであることが分かりました。

インクレチンには、小腸の上部から出てくる「グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide;GIP)」と、小腸の下部から出てくる「グルカゴン様ペプチド-1 (Glucagon-like peptide-1;GLP-1)」という2種類があります。

これらインクレチンは、体内にあるDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という酵素によってすぐに分解されてしまいます

「インクレチン関連薬」は、分解されにくいような修飾をしたGLP-1そのものを注射する「GLP-1受容体作動薬」と、壊してしまうDPP-4の働きを抑える飲み薬である「DPP-4阻害薬」の2種類があります。

インクレチンの歴史

ここで簡単にインクレチンの歴史についてまとめます。

ブタの十二指腸の粘膜抽出物を糖尿病の患者さんに投与すると血糖を下げることが1932年に発見され、そのホルモンのような物質がインクレチン(INCRETIN)、すなわち、INtestine seCRETion INsulin(小腸より分泌されるインスリンのような物質)と名付けられました。

1960年代になって、微量のインスリンを測定できる技術が開発されたことで、同じ量のブドウ糖を静脈内に注入した場合よりも、経口的に投与した方がたくさんのインスリンが放出されることが発見されました。インクレチン効果と呼ばれています。

その後の研究の結果、インスリン分泌の半分は血糖が上昇したことによるものですが、残りの半分はインクレチン効果によるものだということが分かりました。

しかし、なぜか2型糖尿病の患者さんでは、インクレチンのインスリン分泌に貢献する割合が10~20%になってしまっています。2型糖尿病ではインクレチン効果が鈍くなっているのでインスリンも減ってしまうのです。

そこで、インクレチンが治療の標的として研究されるようになり、自分のインクレチンの力を強めようとするDPP-4阻害剤と、不足気味のインクレチンGLP-1を注射して補おうとするGLP-1受容体作動薬が開発されました。

もう1つのインクレチンである、小腸の上の方で作られるCIPについては、2型糖尿病ではなぜか効かないので薬にはなっていません。

インクレチン関連薬の特徴

インクレチンはインスリンの分泌を促しますが、この作用は血糖に依存するので、血糖値が高いときにのみ作用する点で、画期的な薬です。

これまでたくさん使用されてきた「スルホニルウレア剤(SU剤)」もインスリン分泌を促す薬ですが、これは血糖値に関わらず作用するので、血糖値を必要以上に下げてしまい、低血糖を起こす危険性もありました。

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さらに、常にインスリンを無理やり出させるので、膵臓が疲れてだんだん薬が効かなくなる (二次無効) 現象が起きやすいというデメリットもありました。

インクレチン関連薬は、これとは対照的に低血糖のリスクがとても低いのが最大の特徴です。

DPP-4阻害薬、DLP-1作動薬のそれぞれについてみていきましょう。

DPP-4阻害薬

このカテゴリーの薬は、DPP-4という酵素を阻害することで、インクレチンの分解を抑え、インクレチンの濃度を維持することで効果を発揮します。

1日1回または2回の飲み薬で、食事のタイミングに合わせずに飲むこともできます。これまでの多くの糖尿病薬は毎食前に飲まなければいけなかったことを考えれば、だいぶ楽になりました。

他の種類の糖尿病薬とも併用ができますが、SU剤と併用した場合は効果が強くなりすぎて血糖が下がりすぎることがあります。

GLP-1作動薬

1日1回または2回の注射薬です。インスリン注射とほぼ同じで、年齢に関わらず簡単に注射できます。インスリンの分泌を促すことで作用する薬ですので、自分自身の膵臓がインスリンを作って分泌する力を持っていることが必要です。

注射という点から、インスリンと比較されることが多いGLP-1作動薬ですが、少ない回数の注射で食後の血糖を下げられることと、食事とは無関係のタイミングでの注射が可能であることがGLP-1作動薬の利点です。さらにGLP-1作動薬には体重減少効果があります。インスリン療法では体重増加にやりやすいということが問題でしたが、この点もGLP-1作動薬のメリットです。

反対に欠点としては、注射の量を増やしていくことができるインスリンと違い、GLP-1作動薬は決まった量の注射になるので、十分に血糖値が下げられない場合があることです。

本記事執筆の2019年時点では、残念ながら飲み薬のGLP-1作動薬は日本では承認されていないのですが、アメリカでは承認され、これから飲み薬も使われるようになってますます便利になっていくと思います。

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まとめ

最後に今回の内容をまとめます。

  • 小腸ホルモン「インクレチン」は膵臓に作用してインスリンを分泌する
  • DPP-4阻害剤はインクレチンの分解を抑えるタイプの飲み薬
  • GLP-1作動薬は食事の時間に関係なく注射できるというメリットがある

今日も【医学生物学のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

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