ヌクレアーゼは核酸分解酵素の総称です。自然界にはさまざまなヌクレアーゼがありますが、特に分子生物学研究でよく使われているものは限られています。
この記事では、実験でよく使われる代表的なヌクレアーゼについて紹介します。
この記事の内容
Ribonuclease H
Ribonuclease H (RNase H) はDNA-RNAハイブリッドのうちRNA部分の分解を行う酵素です。
もともとは子牛の胸腺から見つかったものですが、哺乳類のさまざまな組織に見られます。
cDNA合成の際のRNA鎖の除去や、poly (dT) に結合したmRNAのpoly(A)テールを除去したいとか、マイクロアレイのプローブ作成などに使われています。
Ribonuclease A
Ribonuclease A (RNase A)は1本鎖RNAのうち、ピリミジン (CとU) の3’側を切断するエンドヌクレアーゼです。
人類が初めて合成した酵素でもあり、これによって生物的分子は人工的に作ることもできる単なる化学物質であることが示されました。
RNase Aはコファクターや2価の陽イオンがなくても機能することができ、RNase inhibitorがあるとブロックされます。
DNAを調製した際に混入したRNAを除去したり、DNA-RNAあるいはRNA-RNAハイブリッドを作った後のハイブリッドになっていないRNA領域を取り除いたりといった目的に主に使われています。
Ribonuclease T1
Ribonuclease T1(RNase T1)は、グアニンの3’側を特異的に切断するエンドリボヌクレアーゼです。
RNase Aと同じく、DNA-RNAやRNA-RNAハイブリッドのハイブリッドでない領域を分解するために使われています。
Deoxyribonuclease I
Deoxyribonuclease I (DNase I) はウシの膵臓由来のエンドヌクレアーゼであり、2本鎖DNAを分解します。
DNase Iは2価の金属イオンが必要であり、CaイオンやMg (またはMn) イオンがあるときに最大活性を示します。また、これらのイオンは相乗効果を示し、例えば0.1 mMのCaイオンと10 mMのMgイオンの両方があるときにはそれぞれの単独しかない場合よりもDNA分解速度がとても速くなります。
面白いことに、金属イオンの種類によっても酵素の働き方が変化します。例えばMnイオンの場合、2本鎖の同じ場所がDNase Iによって切断されるのに対し、Mgイオンの場合はそれぞれの鎖に独立にニックが入ってそれらが蓄積する結果、2本鎖切断が起こります。
用途として、例えばin vitro転写を行った後にmRNAだけ残してDNAテンプレートを消化してしまいたい場合にDNase Iが使われます。ただ、市販のDNase Iは主にウシの膵臓から精製されたものですが、これにはRNaseも相当入ってしまっています (RNase フリーのDNaseも市販されていますが、これはとても高価です)。
RNaseがコンタミしてしまっているDNaseからRNaseを減らすためには、ヨード酢酸 (iodoacelate) の存在下で加熱処理するという方法があり、これによりRNase活性を98%抑えることが可能です (さらにRNases阻害剤も併用すれば高価なRNaseフリーDNaseの代わりとして多くの用途に使えます)。
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溶液を55℃で45分間加熱し、その後0℃まで冷却し、1 M CaCl2を最終濃度 5 mMとなるように加える
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DNase Iを分注して-20℃で保存
通常の哺乳類細胞からとったmRNAであれば、ノーザンハイブリダイゼーションや他のRNA 分析にほとんど支障にならない程度のDNA量しかコンタミしていません。しかし、プラスミドをトランスフェクションしたり、ウイルスを感染させたりした細胞から調製したmRNAには、大量のDNAのコンタミが含まれています。こういったときにもDNase Iで分解が必要です。
2本鎖DNAにランダムにニックを入れたい場合にもDNase Iは使えますが、その場合はDNase Iの濃度をかなり薄くするすことが多いです。
Nuclease S1
ヌクレアーゼS1は、一本鎖DNAまたはRNAを分解する酵素です。
1本鎖でない、二本鎖DNA・二本鎖RNA・DNA-RNAハイブリッドは、ヌクレアーゼS1に対して比較的耐性があるものの、こういった二本鎖核酸は多量のヌクレアーゼS1にさらされると完全に消化され、中程度の量の場合は二本鎖核酸にニックが入ることがわかっています。
ヌクレアーゼS1は低pHで作用するので、しばしば脱プリン化が起こり、そのためいくつかの用途ではヌクレアーゼS1が使えないことに注意が必要です。
また、ヌクレアーゼS1はZnイオンが反応に必要で、多くの会社はZnイオンが入っている専用のバッファーをつけて販売しています。
Mung Bean Nuclease
Mung Bean Nuclease (緑豆ヌクレアーゼとも言われます) は、一本鎖DNAを5’末端にリン酸基を持つ一本鎖またはオリゴヌクレオチドに分解する(Laskowski 1980)。
二本鎖DNA、二本鎖RNA、およびDNA-RNAハイブリッドは、この酵素に対して比較的耐性がありますが、S1ヌクレアーゼと同じく、大量の酵素にさらされると、Mung Bean Nucleaseによって完全に消化されます(Kroeker and Kowalski 1978)。
Mung Bean NucleaseとヌクレアーゼS1は、その性質がよく似ているものの、Mung Bean NucleaseはヌクレアーゼS1よりも作用が弱い場合があります。
例えば、ヌクレアーゼS1は、二本鎖DNAにニックが入っていると、その反対側にあるDNAに作用して二本鎖切断しますが、Mung Bean Nucleaseはニックが数ヌクレオチドの長さのギャップになってからその部分を切断します。
二本鎖DNA の突出末端を平滑末端にしたいときや、選択的に一本鎖DNA、RNAを分解したいときに使われています。
Exonuclease III
Exonuclease IIIは二本鎖DNAの3’-OH末端から5’-モノヌクレオチドを遊離させる3’→5’exonucleaseです。最終的には、遊離した5’-P mononucleotideとDNAができます。
Bacteriophage λ Exonuclease
Bacteriophage λ Exonucleaseは上で述べたExonuclease IIIの逆であり、5’→3′ exonuclease活性がありあります。
主な基質は2本鎖DNAですが、1本鎖DNAにもおよそ1/100程度の活性しかないものの作用します。
関連図書
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