迅速アルカリミニプレップ法の原理とプロトコル 【フェノール不要】

生命科学実験でおそらく初めてやることになるのが、プラスミドのコンストラクト構築とその抽出でしょう。生命科学系の論文で、プラスミドを全く使わないというものはごく少数です。

ある程度経験を積まれた方にはあたり前の内容ですが、この記事ではプラスミド抽出を初めて行う学生さんに向けて、簡単な原理とプロトコル、注意点をまとめます。

大きく3種類あるプラスミド抽出法

まず迅速ライゲーション・トランスフォーメーションの方法 【日常のDNAワークをより速く】で紹介したように、プラスミドを構築して大腸菌で増やします。

そのプラスミドの抽出方法は、大きく3種類あります。

1つは本記事で紹介するアルカリSDS法で、その名前の通り途中にアルカリ+SDS溶液を加えるステップがあります。
2つ目はボイルミニプレップ法で、その名前の通り途中でお湯に入れるステップがあります。ボイルミニプレップは1本のチューブでプラスミドがとれます。

そして3つ目は、市販のキットを使う方法です。この方法は実際には本記事で紹介するアルカリSDS法を使っているのですが、高価なカラムを通すことで、より「きれいな」プラスミドを取ることができます。

市販のキットにはミニ (Mini) プレップやミディ(Midi) プレップ、マキシ (Maxi)プレップといった名前がついていますが、これは対象となる大腸菌液の量を表していて、だいたいですがMiniだと~5 mL、Midiだと~50 mL、Maxiだと数百 mLの培養液を使うことが多いと思います。

どうしても市販のキットを使わないといけない場合もありますが、DNAの切り貼りやコンストラクトが正しくできているかのチェック、ラフなトランスフェクション実験ならこの記事で紹介するキットを使わない方法で十分です。

ボイルミニプレップについてはボイルミニプレップによるプラスミド抽出 【大量サンプルの時に便利】でまとめていますので、この記事では昔ながらのアルカリミニプレップに改良を加えた迅速ミニプレップについて紹介します。

用意するもの

アルカリミニプレップでは、次の3つの溶液が必要になります (他にTEなど一般的なDNAワークにおける試薬も必要です)

P1 (Solution Iとも)
1M Tris-HCl (pH 8.0) 50 mL
0.5M EDTA (pH8.0) 20 mL
Milli-Q water 930 mL
P2 (Solution IIとも)
10N NaOH 20 mL
10% SDS 100 mL
Milli-Q water 880 mL
P3 (Solution IIIとも)
KOAc 250.25 g
Milli-Q water ~800 mL
HCl で pH 5.8 に調整後、1000 mL にメスアップ

プロトコルと原理

プラスミドをトランスフォーメーション語、大腸菌を培養し、1.5 mLチューブに移す

15000rpm, 1分遠心し、上清を吸引

大腸菌を遠心してペレットにします


200 μlのp1を加え、しっかりとボルテックス

p1は事前に冷やしておくというプロトコルも多数ありますが、迅速ミニプレップでは常温でOKです。しっかりとボルテックスして大腸菌の塊がないようにしないと、収量が減ってしまいます


200 μlのp2を加え、5回転倒混和

p2にはアルカリとSDSが含まれていて、これで細胞膜、タンパク質を変性させます。染色体DNAやプラスミドは1本鎖になります。ボルテックスすると大腸菌が過剰に破壊されて染色体DNAがバラバラになり、その断片が混入するのでゆっくりと転倒混和します。昔の本にはここでon iceでincubationと書かれていますが、迅速ミニプレップではすぐに次のステップに移ります


すぐに200 μLのp3を入れ,チューブを5回転倒混和

迅速にアルカリの中和をしています。この過程でプラスミドは小さいので元通り 2本鎖に戻れるものの、巨大な染色体DNAは急速に中和されても二本鎖に戻ることができず、凝集してしまいます。昔の本にはここでincubationと書かれていますが、迅速ミニプレップではすぐに次のステップに移ります


すぐに15000rpm, 4℃, 5分遠心。この間にもう1セットのチューブを用意し500 μlのイソプロプルアルコールを入れておく

凝集した染色体DNAなどが沈殿にくる一方、きちんと2本鎖に戻れたプラスミドDNAはこの条件では沈殿せず上清に残っています


遠心後の上清をイソプロを入れておいたチューブに移す

5回転倒混和した後,すぐに15000 rpm, 4℃で5分遠心

DNA (プラスミド) のエタノール沈殿をしています。塩を加えていないように見えますが、大腸菌を溶解しているので、その中にたくさんの塩がすでに含まれています。エタノール沈殿についてはエタノール沈殿のプロトコルと原理・理由 【トラブルシューティングも含めた完全版】もお読みください。


上清を吸引, 1度吸引したら30秒静置して壁の液を落とした後,再び吸引しイソプロを完全に除く。

ここがあまいとDNAに塩が混入し,低塩濃度を好む制限酵素(Sac IやKpn Iなど)が切れにくくなります


70%エタノールを1mLずつ各チューブに入れる

フタをして3回転倒混和,15000 rpm, 4℃で1分遠心

ペレットを目で確認しながら,ゆっくりsupを捨てる

軽くフラッシュ、エタノールを完全に除く

100 μlのTE (RNaseが入ったもの) を入れ,撹拌溶解。

この方法では実際には大量にRNAも沈殿しているので、RNaseを加えていないと電気泳動した時に大量のリボソームRNAも一緒に写ってしまいます。RNaseを加えればそれらを消してプラスミドだけにできます。


一部を制限酵素処理し、電気泳動で確認。電気泳動はアガロースゲル電気泳動の方法と原理 【失敗原因の考察も】にまとめています。

吸光度で濃度が測定できないわけ

多くの場合、DNAの濃度は260 nmの吸光度を調べて計算しているでしょうし、260/280比の基本: DNA濃度を吸光度で測る 【原理と注意点】にも書きました。

しかしこの方法では実際の濃度よりも高く出てしまいます。

その理由は、この方法ではRNAも入ってきていて、RNase処理はしているものの、フリーのヌクレオチドがまだたくさんいる状態だからです。これらが260 nmを吸収しているのです。

そのため、実際の260 nmの吸光度はプラスミド量を反映しません。プラスミドの濃度を測定するには、電気泳動をして、マーカーの濃さと比較しましょう。流すマーカーの量を決めておけば、それをベースにして、どれくらいのDNAがそこにあるのかを見積もることができます。

フェノール処理不要のわけ

昔のプロトコル集には、この後は除タンパクを行うフェノール処理を追加するプロトコルがたくさん掲載されています。

なぜフェノール処理が必要だったのでしょうか?一番大きな目的は、大腸菌が本来持っているendonucleaseというDNaseの一種を除きたいからです。

フェノール抽出やその注意点はフェノール・クロロホルム抽出とDNA精製 【フェノクロ試薬の役割も】という記事にまとめています

せっかくプラスミドを抽出したのに、そこにDNaseがあったら時間経過とともに分解してしまいますね。だからこそフェノール処理をしていたのです。

実は使用する大腸菌に特徴があるのです。どんな大腸菌でもいいわけではありません。

大腸菌の中にはendonucleaseが欠損している株があります。よく使われているものだと、例えばJM109とかDH5αなどがあります。

endonucleaseをコードする遺伝子はendA1というのですが、目的の大腸菌株のgenotypeを調べ、そこにendA1が書かれていれば、endonucleaseが機能しておらず、したがってここで紹介したフェノールなしの迅速ミニプレップが使える大腸菌株ということになります。

200819 1

しっかりと大腸菌株を選べば、迅速にプラスミド抽出ができます。大腸菌の遺伝子型を調べることで他にもたくさんのことが分かるので、いつか記事としてまとめようと思います。

[common_content id=”6615″]

関連図書

この記事に関連した内容を紹介しているサイトや本はこちらです。

クローニングの方法まとめ 【制限酵素だけではない】

ボイルミニプレップによるプラスミド抽出 【大量サンプルの時に便利】

フェノール・クロロホルム抽出とDNA精製 【フェノクロ試薬の役割も】

迅速ライゲーション・トランスフォーメーションの方法 【日常のDNAワークをより速く】

アガロースゲル電気泳動の方法と原理 【失敗原因の考察も】

今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。当サイトの記事をもとに加筆した月2回のニュースレターも好評配信中ですので、よろしければこちらも合わせてどうぞ