こんにちは。
先日大学院生活についての紹介記事「研究者への登竜門 ! 分かりにくい大学院の制度を解説」を書いたところ、これが予想以上に反響があったので今日は大学院生活の最終段階にある学位審査について体験談をまじえて紹介しようと思います。
これから学位審査を控えている人だけでなく、大学院に進学しようと思っている研究者の卵の人にも、大学院っていったいどんなところと思っている方にも少しでも役立てばと思います。
この記事の内容
学位審査とは
そもそも「学位審査」とは何か説明が必要ですね。
「学位審査」は、その人が博士号の学位に値するかを審査する会です。
「博士」はなんとなくイメージがあると思います。
その「博士」を名乗ることができる博士号という学位は、研究者の世界では一人前と認められる基準になっています。
研究能力がそのラインに達しているかを客観的に評価しようというのが学位審査なわけです。
くるまを運転するための実技+学科試験というイメージですね。
どのようにして評価をするかというと、博士号が欲しい申請者に、研究内容について発表してもらい、専門分野が近い複数の教授が聞いて質疑応答をするという形式が普通です。
発表は20分なのに対し、質疑応答は40分、合計で1時間というのが、わたしが博士号をとった時の審査でした。
この審査員のうち、メインで審査をする1人が主査、その他の審査員を副査といいます。わたしの経験では、合わせて3人の審査員というのが一般的な大学の学位審査です。
ちなみにアメリカでも同じような制度で学位審査が行われていて、学位を「守る」という意味で、学位審査のことをディフェンス (防御するの意味の英語) という風にいいます。
学位審査はかなり大変でして、ディフェンスというのも的を得ているなと思います。
学位審査が人生で1番恐怖だったし、この先あれを超える恐怖は想像できないw
泣き会w
— Hideomi (@fryderyk37) 2019年5月29日
博士号の学位審査が楽とかいう話、一体どこの世界線なんだ…?(その辺の時期、人生で一番辛かった記憶しかない)
— Nagamura ∩|∵|∩ Naoka (@naganao) 2019年4月15日
学位審査はいつでも誰でも受けれるの?
学位審査は誰でも受けられるというわけではありません。
実は大学によって規定はまちまちですが、わたしのところでは規定年数在籍して単位をとった上で、筆頭著者として国際的な査読付き学術誌に研究論文が掲載された実績があるというのが最低条件でした。
今はいろいろな実験ができるようになり、その分学術誌に掲載されるまでに必要なデータ量もずっと増えています。
そのため論文を出すために規定年数以上在籍する方も少なくありません。
幸いにして論文が採択されれば、学位審査はいつでも受けることができます。毎月開催されていると思っていいでしょう。
来年まで待たずすぐに申請した方がいいです。
学位審査準備の流れ
わたしがとったのは数ある博士の中でも医学博士なので、この分野の話をします。
まずは日程調整
学位審査のための申請をして主査と副査の先生方が決まったら、最初にするべきことはそれらの先生達の日程調整です。
私は先生方に日程をお伺いする書類を作り、3人の先生にもっていきました。
本当は先生に直接お渡ししてご挨拶をしたかったのですが、最近はそういうのが難しいところも多いです。
高価なお菓子等を渡すなど、公平な審査が疑われるケースがあるからです。
なので実際には秘書さんに渡して、都合の悪い日程をFAXで教えていただきました。
わたしの指導教官の予定も照らし合わせて日程を決めました。
審査員の先生方の日程が判明次第すぐに日程を決めるというのがマナーだと思います。
自分の論文をしっかり読み返す
次に自分の論文をしっかりと読み返すべきです。
準備をしているとこれは以外と盲点になりがちですが、審査員は論文を読んできて、発表というよりもむしろ論文に沿って質問をしてきます。
研究の背景や引用した論文などについてみっちりと復習をしておかないと質疑応答で痛い目にあうのは目に見えています。
学位審査のときは「落ちる可能性が非常に高い」が毎朝6時半に起きて勉強すること徹底した。
やっても落ちるかもしれないが、やらなくても落ちる。
努力して落ちた場合は仕方ない。能力がないということで、残念だった
というスタンスでやってきた。— natsuko_iga@D2Cスキンケア/皮膚科 (@Joyjoy53896616) 2019年5月24日
スライドよりも原稿を先に作る
スライドを先に作る人が多いですが、わたしは先に原稿を作った方がいいと考えています。
理由は簡単で、作らないといけないスライドが明確になるから。
スライドを先に作ると、時間の関係であまり話すことができないスライドも気合を入れて作ってしまいがちです。
でも実際には研究内容をかなり抜粋しないと制限時間内にまず収まりません。
NHKのアナウンサーが1分間に300文字の速度で話すように訓練しているのは、その速度が一番わかりやすいからです。
ちなみにこれは少しゆっくり話す感覚の時の速度です。枝葉は削って厳選した内容しか話せないので、時間配分を考える上でも原稿が先をオススメします。
素人にもわかるスライドを作る (予備スライドも忘れずに)
スライドは論文とは違って、学問的な正確性よりもわかりやすさが求められます。
分野外の研究者にもわかってもらえるよう、わかりやすいスライドを心がけないといけない。
スライドの完成版は印刷し、ハンドアウトとして当日審査員に渡せると理解が深まっていいです。
さらに、発表にはつかわないが、質疑応答で聞かれた時のための予備のスライドも用意しておこう。
これはなぜかというと、もちろん審査員にとってわかりやすいのはもちろん、万が一の時の一種のカンペとしても役立つからです。
学位審査のときには緊張してど忘れしてしまうこともあるかもしれないが、スライドがあれば、その内容を説明するだけなので気が楽です。
わたしの場合は予備スライド30枚ほど用意しました。
学位審査本番
そしていよいよ学位審査。
当日の服装は当然スーツ。普段から着こなす営業職のサラリーマンなら当たり前だが、そうではない研究者だからこそ、事前にしっかりクリーニングをかけ、当日に持っていくのを忘れないようにしないといけないですね。
当然ですが審査員の先生がくるよりも先に学位審査の部屋に入り、セッティングをしておく必要があります。
時間になったらあとは発表するだけ。少し早口になってしまいがちなので、ゆったりめに話すのがちょうどいいのかもしれない。
質疑応答は口頭試問と捉えると気が重いですが、研究内容についてより深く知っているのはその研究を長いことやってきたじぶんですね。
極端な話、素人にレクチャーしてあげるくらいのきもちでやればいい。
それくらいの方が内容もわかりやすくなっていい。
学位審査のお礼はいらない
学位審査が終わったあと、主査や副査の先生に家にお礼は必要か?
結論からいうと必要ないです。
一昔前はお礼をする風習があったようですが、気をつけないといけないのは、この時点ではまだ学位をもらっていないということ。
正式に授与されるのは学位審査の後、教授会などで決定してからです。
その段階での「お礼」は利害関係の強い人からの賄賂と捉えられてもおかしくありません。
実際にお礼を禁止している大学も少なくないようです。
やっておいた方がよかった
やっておいた方が良かったこととして、最後にいくつか。
予備スライドはすぐに取り出せるか?
まず1つは、予備のスライドを作っておくのがよいという話をしたが、わたしの場合は少し作りすぎて、逆に必要なときにとっさに出すことができなかった。
すぐに出せるような状態にしておかないとスライドを探す数秒が間延びしてしまう。
予備スライドを厳選するか、あるいは予備スライドの目次のようなものを手元に紙で用意しておいて必要なスライドが何枚目にあるのかをすぐに把握できるようにする工夫が必要だ。
他のひとの学位審査はどれほど見たか?
2つ目として、研究発表との学位審査は少し違うものなので、どのような発表を他の人がしているのかを知っておくのも大事なことだ。
学位審査は公開されているので、誰でもみることができる。
大学院で何年かすごして学位審査が近くなってきたら、少し先に学位審査を受ける人の発表を積極的に見にいって感覚をつかんでおくと良かったかもしれない。
まとめ
最後に要点をもう一度まとめておく。
- 学位審査は研究者として一人前の能力が備わっているかの公開審査
- 学位審査は年中いつでもうけられる
- 自分がうけるよりも前に他の人の様子をみて感覚をつかむ
- スライドよりも原稿を先に用意する
- 予備スライドも準備
- その分野の素人にレクチャーする気持ちで
- お礼は基本的に不要
この記事を読んで少しでも役に立ったらうれしいです。学位審査頑張ってください。