高額療養費制度の概要 【年収別限度額計算の実例つき】
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保険診療では、自分が負担するのは医療費の一部ですが、長期間に及ぶ治療や、手術を行った場合などには金銭的負担は少なくありません。

もし医療費が高額になってしまった場合、ある一定額を超えた部分については払い戻しをしてもらえる「高額療養費制度」というのがあります。この記事ではこの制度について詳しく解説します。

高額療養費制度とは

高額療養費制度は、病院などの医療機関や薬局で払った金額が、1日からその月の最後までを合計して一定額 (自己負担限度額といいます) を超えた場合、超えた分を払い戻してもらえる制度です。

例えば、60才の方が入院・手術でその月に100万円の「医療費」がかかった場合、支払うのはその3割にあたる30万です。

なぜ3割になるのか、他の年齢だとどうなるのかは医療費の基本を復習する【医療費控除計算の前提知識】にまとめています

しかし、この方の年収にもよりますが、中程度の年収だとすれば87,430円が自己負担限度額ですので、これを超えるおよそ21万円は後で払い戻してもらえることになります。

ここで「医療費」と漠然とした表現を使いましたが、これの対象は手術・入院費・薬代・検査代など、保険診療で必要な費用になります。

それ以外の費用、例えば差額ベッド代 (相部屋ではなく自ら希望して個室で入院生活をおくるなどするとかかります)、食費、先進的でまだ保険適用されていない医療にかかる費用については、この制度の対象外 (つまり完全自己負担) です。

2ヶ月、あるいはもっと長期に渡って入院していた場合には、それぞれの月ごとに高額療養費制度の対象になるか判断されます。

自己負担限度額の計算法

それでは「自己負担限度額」はどのように決まるのでしょうか? まず、70才未満か、70才以上かで大きく分かれます。

70才未満の方の場合

70才未満の方の場合、「標準月額報酬」によってさらに分かれることになりますが、ここではざっくりとした「年収」に直して紹介します。

年収がおよそ1160万円以上の方の場合の、1ヶ月あたりの自己負担上限額は

252,600 + (医療費 - 842,000) x 0.01

になります。例えば、100万円の医療費がその月にかかった場合、
252,600 + (1,000,000 - 842,000) x 0.01 = 254,180円
までが自己負担額であり、残りのおよそ75万円は払い戻ししてもらえることになります。

年収がおよそ770万~1160万円以上の方の場合の、1ヶ月あたりの自己負担上限額は
167,400 + (医療費 - 558,000) x 0.01

年収がおよそ370万~770万円以上の方の場合の、1ヶ月あたりの自己負担上限額は
80,100 + (医療費 - 267,000) x 0.01

同じように100万円の医療費がかかった場合、年収770万~1160万円の方の場合の自己負担上限額はおよそ17万、年収370万~770万円の方の自己負担上限額は87430円となり、年収が多い人ほど自己負担上限額も高くなります。

370万円未満の方の場合はかかった医療費に関係なく自己負担限度額は定額で、

年収がおよそ370万円未満の方の場合の、1ヶ月あたりの自己負担上限額は57,600円
住民税非課税の方の1ヶ月あたりの自己負担上限額は35,400円

となっています。

また、直近1年で3回高度療養費の支給を受けた場合、4回目以降は「多数回該当」となり、自己負担限度額が引き下げられます。

例えば、3月、5月、8月にすでに高額療養費制度の支給をしてもらっていて、10月や12月も医療費が高額になった場合、多数回該当になり、自己負担限度額が引き下げられます
多数回該当 (1年で4回以上)の場合の自己負担限度額
年収1160万円以上: 140,100円
年収770万~1160万円: 93,000円
年収770万円未満: 44,400円
住民税非課税: 24,600円

70才以上の方の場合

70才以上でも現役世代と変わらず働き、現役世代と変わらない収入 (月収28万円以上) を得ている方 (「現役並み所得者」) の場合には、自己負担限度額は

80,100 + (医療費 - 267,000) x 0.01
(多数回該当の場合には44,400円)

となります。また、この金額は外来 + 入院の医療費ですが、外来 (通院) のみで44,400円を超えた場合にも後で差額を払い戻してもらえます。

世帯全員仕事をしておらず、しかもそれぞれの方の年金収入がいずれも(年間で)80万円に満たない方の自己負担限度額は15,000円になります。また、外来のみで8,000円を超えた場合にも制度の対象になります。

住民税非課税世帯の方の場合には、自己負担限度額は24,600円になります。また、外来のみで8,000円を超えた場合にも制度の対象になります。

それ以外の方の自己負担限度額は44,400円で、外来のみで12,000円を超えた場合にも差額を払い戻してもらえます。

自己負担額は合計できる

それでは複数の医療機関 (歯医者も含む)を受診した場合には、「医療費」はどう計算されるのでしょうか?

70才未満の方の場合は、同じ月にそれぞれの医療機関で21,000円以上払った場合には合計することができます。また、同じ医療保険に加入する家族で21,000円以上医療費がかかった方がいれば、その方の分も合計できます (同じ医療保険でない場合、例えば夫婦共働きでそれぞれ違う健康保険に入っている場合などには合計できません)。

例えば3つの医療機関で、それぞれ6万円、3万円、2万円を払った場合には、21,000円以上払っている最初の2つを合算することができてその月の「医療費」は9万円と計算され、年収500万円の場合には自己負担限度額が8万円台ですので差額の1万円弱は戻ってくることになります (3番目の医療機関で払った2万円は制度の対象外になることに注意)。

夫の医療費が9万円、専業主婦で同じ健康保険に入っている妻は2つの病院で3万円、2万円の医療費がかかった場合、世帯として21,000円以上払った9万円と3万円を合計して12万円払ったことになります。

70才未満だと21,000円未満の支払いは合計できませんが、70才以上の方の場合はこの制限がなく、金額に関係なく全ての自己負担額を合計できます。さらに、(家族合計ではなく) 個人の外来のみの費用が月に規定の額を超える場合にも高額療養費制度の対象になります。

高額療養費制度の申請方法

高額療養費の申請は、加入している公的医療保険 (国民健康保険とか共済組合など) に支給申請書を出し、このときに医療機関で発行された領収書が必要になることもあります。高額療養費は、診療を受けた翌月から2年間の間ならさかのぼって申請することができます

医療保険によっては、支給対象であることを郵送で教えてくれることもあるようです。

もし一時的に高額な医療費が必要になった場合にも、過度な負担をしなくてすむようにできる公的な制度も用意されています。詳しくは限度額適用認定証と高額療養費貸付制度 【高額な医療費でも大丈夫】でまとめましたので合わせてご覧ください。

まとめに代えて

この記事では、知っているようであまり知らない高額療養費制度について紹介しました。大きな病気をすると医療費が高額になるのは避けて通れません。そんなときにこの制度があることを知っていると安心できますね。

国の制度には他にもいろいろあり、「知らないと損をする!国の制度をトコトン使う本」などで一度眺めておくといいかもしれません。

医療従事者の方向けには、「医療事務の現場で役に立つ 公費説明のポイント」という本もあり、より詳しいことがまとまっています。

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