心臓は全身に血液を送り届ける重要な臓器だが、分かっていないことも多い。今回、ヒトの心臓細胞の「タンパク質工場」を観察し、組織全体を初めて調べた論文が Cell誌に掲載された。原題はThe Translational Landscape of the Human Heartだ。

研究の概要

心臓には多くの秘密がある。科学的な観点から、体のあらゆる細胞に酸素を供給する心臓の機能についてまだまだ驚くほど分かっていることは少ないのが現状だ。

今回、Cellに発表された研究は心臓でのタンパク質産生、すなわち翻訳に焦点をあてた研究。56人の研究者からなる国際チームは、健康な人々と心臓病を患っている人の両方の心臓細胞において、細胞タンパク質工場であるリボソームによって生産されるタンパク質を調べた。
その結果は驚くべきもので、以前は全く知られていなかった多数のマイクロタンパクが心臓にあるということがわかったのだ。

「ジャンクDNA」から見つかった心臓マイクロタンパクはエネルギー産生に関わっている

すべての細胞の核に保存されているDNAには、体内で生成されるすべてのタンパク質の設計図が書かれている。タンパク質の生産は、転写 (transcription)翻訳 (translation) という2段階のプロセスからなる。
第一段階の転写では、DNAのコピーがメッセンジャーRNA(mRNA)の形で作られ、第二段階では、mRNAの情報をもとにリボソームにおいて指示されたタンパクを作るということになる。

DNAの情報はまずtransciption (転写) でmRNAになり、そしてtranslation (翻訳) でタンパクができる。

これまで転写についてはいろいろ調べられてきたが、翻訳についてはほとんど知られていなかった

リボソームプロファイリング (Ribo-Seq) として知られる比較的新しい技術を使い、単離された心筋細胞だけでなく、ヒトの心臓組織においても、リボソームがどのmRNA部位を移動するかを初めて決定した。

この技術を使用して、研究者達は一連の小さな、これまで未知のタンパク質を発見した。
驚くべきは、このマイクロタンパクは、今までタンパクをコードするとは考えられていなかった「ジャンクDNA」からコードされていたことだ。

科学者たちは、特別な顕微鏡技術を使って、これらのマイクロタンパク質の半分以上が細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアに移動することを観察した。これは、マイクロタンパクが心臓のエネルギー生産に使用されていることを示唆する。

この研究の意義と今後の展望

心臓病の中には不完全なエネルギー代謝によって引き起こされるものも多いので、この結果は特に重要だ。

心臓病と健康な心臓で、作られたタンパク質について差があるのかを調べるために、科学者は拡張型心筋症(DCM)患者65人からの組織サンプルを調べている。

新しく発見されたマイクロタンパク質の役割をもっと詳しく調べる必要もあるだろう。
これらのマイクロタンパク質は進化的にはかなり若いようで、例えば、マウスの心臓にはそれらが見つからないことはこの論文に報告されている。

そのため、マイクロタンパクは人間の心臓の特殊性に関与しているのかもしれない。

これらのマイクロタンパクをいつか心臓病の診断や、エネルギー代謝の障害の治療に使われることはあるのだろうか?

まとめ

最後に今回の内容をまとめる。

  • 心臓での翻訳を網羅的に解析し、マイクロタンパクを多数発見
  • マイクロタンパクはジャンクDNAから作られていて、エネルギー産生に関わっている
  • 進化的にはかなり人に近いところだけでマイクロタンパクが見られる

今日も【医学生物学領域のポータルサイト】生命医学をハックするをお読みいただきありがとうございました。

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