はじめてのRNA-seqをやる前に 【RNA抽出~サンプル調製の概略】

RNA-seqは今やほとんどの生命科学研究に使われていると過言ではありません。
そこで、この記事と次の記事で、RNA-seqを今から始めたい方が知っておかないといけない基礎中の基礎をまとめていきます。

RNAの用意のしかた

まず用意すべきものはRNAですね。

イルミナのRNA-Seq用のライブラリー調製キットでは、100 ng ~ 1 ugのTotal RNAを使います。

どんなRNAでもOK、というわけではもちろんなくて、A260/A280およびA260/A230がともに1.8以上になる、純度が一定以上のものです。

なお260と280については260/280比の基本: DNA濃度を吸光度で測る 【原理と注意点】という学生さん向けの記事も書いています。

分解されていないRNAを使う必要があり、それにはAgilent BioAnalyzerでRNA分子のサイズ分布を確認し、RIN (RNA Integrity Number) 値が8.0以上28S/18S RNAの値が1.4以上であれば、RNA-seqに向く分解されていないRNAと慣習的に考えられています。

施設によってはBioAnalyzerがないということもあると思いますが、その場合はアガロース電気泳動でrRNAのシャープなバンドが見られ、かつスメアがなければOKです。

ちなみに、RNA抽出そのものはどんな方法でもOKです。

ただ、DNase処理は行っておくのがベターです (ゲノムDNAが少しでもあると、RNAの濃度を正確に測るのは難しいですし、断片化されたDNAがライブラリーの中に入る恐れもあります)。

RNAの精製後、最終的にNuclease Free Waterに溶解して第一段階終了です。

ライブラリー調製の概略

次に行うことは、Total RNAからライブラリーを作製することで、ここはそれぞれのキットによるところも大きいのですが、基本的な流れはこのようになっています。

ライブラリー調製の概略
mRNAの精製

断片化

逆転写

アダプター付加

それぞれ順番に補足します。

mRNAの精製

Total RNAのほとんどはrRNAが占めているのはご存知のとおりです。次にtRNAが多いので、mRNAはごくわずかしかありません。

そのため、mRNAを精製する必要があります。

具体的には、poly A配列に対するオリゴdTが結合した磁気ビーズを使って、mRNAをキャプチャーする方法が主流です。

興味のあるmRNAに3’のポリAがないという場合 (polyAがつかないlncRNAのような転写産物の場合、あるいは原核生物のmRNAのようにそもそもpolyAという仕組みがない場合) は、代わりにrRNAをキャプチャーするプローブを使ってrRNAを除くことができます。

あるいは、mRNA分解が進んでしまっている場合、ポリAキャプチャーするとどうしても3’側の配列にバイアスがかかってシークエンスされることになります。
これを防ぐために、RINが低いサンプルをシークエンスする場合にもrRNAキャプチャーは用いられています。

詳しくは各メーカーのキットの添付文書をご覧ください。

断片化と逆転写

mRNAを数百bpに断片化します。
最近はナノポアのようなロングリードに強い機械もありますが、Illumina社のシークエンサーではショートリードしか対応できないためというのが1つ目の理由です。

もう1つ、シークエンスされるのはライブラリーの末端だけなので、ランダムな断片化を行うことでいろいろなところの配列を読むことができるという理由もあります。

逆転写でcDNAを作った後、アダプター付加です。

アダプター付加とPCR

場合によってですが、2本のDNA鎖のうちどちらの鎖由来の発現なのか知りたい場合もあります。

そういった需要に対応できるキットもあり、cDNAの2本鎖合成を行う時にdTTPの代わりにdUTPを使うというトリックが行われています。

アダプター付加した後に、ライブラリーのPCR増幅を行うのですが、dUTPはdTTPに比べて増幅効率が圧倒的に低いので、ライブラリーのほとんどがTが入っている1st鎖 (もともと発現があった側)由来となるのです。

これにより、鎖を区別したライブラリー作製を行うことができます。

短いRNAの対応

普通のRNAseqサンプル調製キットでは、短いRNA (miRNAなど) は捕捉できません。

もしmiRNAを対象にした解析をしたい場合には、small RNA用のライブラリー調製キットが売られているのでそちらを使う必要があります。

まとめに代えて

この記事では、RNA-seqをはじめるにあたってまず知っておきたいRNA抽出とサンプル調製の概略を取り上げました。

サンプル調製後はシークエンサーにかけてデータをとるのですが、その手順の概略についてははじめてのRNA-seqをやる前に 【シークエンサーのしくみとデータ登録】に概略を書いています。

メーカーのサイトももちろん有益ですが、より体系だった知識を日本語で勉強したい場合には本を読むのが一番です。
「次世代シークエンス解析スタンダード〜NGSのポテンシャルを活かしきるWET&DRY」は、まさにはじめての方向けのノウハウが濃縮されています。

データ解析については、「RNA-Seqデータ解析 WETラボのための鉄板レシピ」という本がこれまでコンピューター解析にあまり詳しくない方向けに書かれた本として定評があります。

また、完全にマウスクリックのみでもある程度のことは可能であり、やり方を
iDEPによるwebベースのRNA-seq解析【初心者でも安心】という記事で紹介しているのであわせてご覧ください。

今日も【生命医学をハックする】 (@biomedicalhacks) をお読みいただきありがとうございました。当サイトの記事をもとに加筆した月2回のニュースレターも好評配信中ですので、よろしければこちらも合わせてどうぞ