生命科学実験における再利用のススメ 【日常的なルーチン3つ】

生命科学実験にはお金がかかりますが、その予算は限られています。

そのため、ちょっとしたことでもしっかりと再利用をして、大事なところでしっかりとお金を使えるようにしておく必要があります。

この記事では、日常的によく行われている実験のうち、再利用して何回も使うことでゴミも研究費も減らせるアイデア3つを紹介します。

アガロース電気泳動実験における再利用

DNAの電気泳動は世界中の研究室で日夜行われているルーチンワークの定番とも言えるでしょう。電気泳動についてはアガロースゲル電気泳動の方法と原理 【失敗原因の考察も】という記事にまとめています。

相当行うからこそ、再利用する機会が多いのが、ゲルの再利用です。

アガロースゲルを、一度サンプルを流して捨ててしまうのはもったいないです。次のようにすると再利用ができます。

ゲルの再利用法
泳動後のゲルを三角フラスコや、やかんに回収しておく。違う濃度のゲルは混ざらないように別々に回収する。

ある程度たまってきたら、それを再溶解する (三角フラスコをレンジで加熱したり、やかんをオートクレーブの機械で95℃, 10分など)

エチブロを加える

トレイに流し込んで、いつもの通り固める

さすがに再利用したゲルを、論文のデータにするのはどうかと思いますが、日常的に行うプラスミドのチェックとか、ジェノタイプPCRなどの判定には再利用ゲルで十分です。

再利用を繰り返すとゲルがどんどんもろくなるのですが、これで4-5回くらいまでは使えます。

注意点として、ゲルを溶かした時点で中にはエチジウムブロマイドが入っているので沸騰させて飛び散らないようにする必要があります。

ウェスタンブロット実験における再利用

DNAワークにおけるルーチンワークがアガロースゲル電気泳動なら、タンパク実験におけるルーチンの代表はウェスタンブロットでしょう。SDS-PAGEの原理とプロトコル 【その他のタンパク泳動方法も】ウェスタンブロットの転写 (トランスファー) 方法【タンク式とセミドライ式】にまとめています。

ウェスタンに使うPVDF膜は物理的な強度が強くタンパク質吸着力も高いという点で魅力的ですが、結構いいお値段します。最初はロール状 (シート状) になっていますが、ゲルの (スタッキング領域を除いた) 大きさに合わせて切り、無駄に大きいPVDF膜を使わないようにするのは基本ですね。

PVDF膜は次にメタノールに浸して親水化処理をしますが、このときのメタノールは何度でも再利用できるので捨てないでとっておきましょう。

ウェスタンブロットにおける1次抗体はとても高価ですが、この1次抗体は再利用できます。多くの抗体は、バッファーに希釈して、アザイド (防腐剤) を入れて冷蔵保存していれば数ヶ月に渡って何度も再利用ができるのです。

頻繁に使う抗体は、例えば10 mL分の抗体希釈液を作っておけば、タッパーに入れてメンブレンを浸透しながら抗体反応ができるので、泡が入らないように注意して小さな袋に入れるという手間もないですし染色ムラも回避できます。

また、小さな袋に入れるためにバンドがあるところだけメンブレンを切り取る方もいますが、タンパク質の予想外の修飾やプロセシングにより目的外の場所にバンドがあって、それを見逃してしまうかもしれません。あまり小さく切りすぎるのは注意が必要です。

また、これは本記事のテーマである再利用というわけではないのですが、1次抗体・2次抗体とも、抗体反応後のPBSTなどによる洗浄は数秒 x 4~5回で十分なことが多いです。プロトコル集によく書かれているような10分 x 3回などの丁寧な洗浄は、いわばおまじないですので、一度は数秒のみの洗浄と比較してみることをオススメします。多くのケースでは大きな時間の節約ができることがわかるでしょう。

1つの抗体の結果をチェックしたら、別の抗体も当ててみたいですね。それにはリプローブといって、PVDF膜から抗体を剥がしてから、再び (ブロッキング後に) 別の抗体反応を行うというラボが多いと思います。

リプローブの方法 (の一例)
Stripping bufferを用意しておく
10% SDS 100mL
1M Tris (pH 6.8) 31.25mL
MilliQで500mLへメスアップ

Stripping buffer 20mLをコニカルチューブに取り、140 μLの2MEを加える

2MEを使用前に加えたStripping bufferをタッパーに移し、メンブレンを入れ、フタをして全体をビニールに入れて60℃に温めたwater bathに浮かべ10分

メンブレンを取り出し、TBST (PBST)で5分 x 3回 wash

しかしいくらPVDF膜のタンパク吸着力が強いとはいえ、リプローブをすると吸着しているタンパクも少しずつ剥がれてしまうので、繰り返すごとに次の抗体の反応性が低下していってしまいます。

目的とするバンドサイズが異なる、特異性の高い1次抗体を続けて使う場合には、間にリプローブを挟む必要はありません。2つの2次抗体の動物種が違う場合も同じです。検出するタンパクの順番をよく考えることで、最小限のリプローブ回数に抑えることができます。

プラスチックを再利用する

日常の生命科学実験で最もよく使っているのはプラスチック容器でしょう。15・50 mLのコニカルチューブや、大腸菌培養のチューブなど、たくさんあります。

特に細胞培養は、コニカルチューブをたくさん使う実験ですが、細胞培養ということはきれいなものを扱っているはずですので、コニカルチューブも再利用しましょう。

やり方は単純で、水道水ですすいでためておき、ある程度まとまったら超純水で軽くすすいでからオートクレーブにかけるだけです (劇毒物を扱ったもの・ウイルスを扱ったものなどは再利用せずに施設の規定に従って処分します)。

また、大腸菌・酵母を培養するチューブについても再利用が可能です。塩素系漂白剤 (ハイターなど) が入ったバケツに殺菌のために入れて、まとまったら水道水ですすいでオートクレーブという流れです。

なお、プラスチックにはオートクレーブできないものもあります。詳しくはプラスチックのオートクレーブ可能・不可能の見分け方 【生命科学実験の初歩】をご覧ください。

まとめに代えて

この記事では生命科学研究において日常的に行う3つの実験、アガロースゲル電気泳動・ウェスタンブロット・細胞培養において、再利用のアイデアを3つ紹介しました。

これらはいずれも、これまでお世話になった先生や研究者仲間の方々が実践されていたものを抜粋してまとめたものです。

ゴミを減らして地球にも優しく、かつ研究費の節約にもなると思います。部分的にでも試してみようと思えるものがあったら幸いです。

関連図書

この記事に関連した内容を紹介しているサイトや本はこちらです。

アガロースゲル電気泳動の方法と原理 【失敗原因の考察も】

SDS-PAGEの原理とプロトコル 【その他のタンパク泳動方法も】

プラスチックのオートクレーブ可能・不可能の見分け方 【生命科学実験の初歩】

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